Popsの真髄とは何だろうか。「理屈を超えて気持ちがいいことである」と、寺尾伴内は本インタビュー で説明している。ヒップホップ・渋谷系の登場以降「音楽はエディットするものである」という優等生の論理にPopsは囚われてきた。 しかし 10年代の幕開けと共に、ペロニカはその壁をいとも簡単に越えてしまったように思える。確かに エディットという手法であると言える。しかし、フレンチ・ポップに、 90年代ノスタルジーに、憧れのヒロインに心躍らせて音楽を楽しんでいることがヒリヒリと伝わるのだ。体全身でペロニカのグルーヴ を感じていただきたい。大切なのは、気持ち良いということ。トリコロール・サマーであなただけの夏 を、心に刻み込みませんか。 このインタビューは、Peronicaの1stアルバム『トリコロール・サマー』リリースに先駆けて行われた。 神奈川県某所、キャフェにて。寺尾伴内、 toyottyの二人へのインタビュー。
取材・文/半熟たまご
2010年7月掲載
●宜しくお願いします。いきなりですが、まずは結成の経緯からお聞かせください。
寺尾伴内(以下、寺): Peronica以前の話になるんですが、サークルの友人との間でVeronicaという戸 川純のトリビュートバンドを結成しました(注:YouTubeにて確認できます)。 しかし、誰を戸川純にするのかということが問題になったのです。そうした時に、演技力重視でメン バーをセレクトしました。戸川役として、当時はサークル内で地味な存在であった toyottyに目をつけた のです。僕のイメージでは彼女はひょうきんだし、適役かなあと。
(toyotty、気まずそうにひたすら水を飲む。)
誘ってみると、戸惑いつつも OKをもらったので実際に結成したのです。
●戸川純のトリビュートからPeronica結成へはどのように動いたのでしょうか。
寺:鍵盤奏者として参加してくれたのが、toyottyの高校時代の同級生であるimopyだったんですね。 imopyは僕らの大学の学生ではなかったので、お疲れ会という形で何度か交流をしていたんです。その時になんとなく、冗談半分でバンドをやろうかと。どうせ僕が言いだした事だと思うんですけどね。(笑)
toyotty(以下、T):(笑)。
寺:そうした流れで、 2009年7月に正式に曲作りを始めることになりました。
●オリジナルバンドをやるということは、作曲を行うことになりますが、まず寺尾さん自身のキャリア の中でそうした経験はありましたか?
寺:僕は小学校の頃から歌と踊りが好きだったんですね。ここではあまり言えない話なんですが、自分の作った歌と踊りを同級生に行わせるということをしていました(笑)。
T:どこかの誰かと同じじゃないですか(笑)。
寺:高校の頃は、学園祭のテーマソングを競うコンテストがありまして、後輩と一緒にバンドを組んだんです。その時に作った曲は残念ながら採用されなかったんですが、歌詞を初めて書いたというのは大きな経験でしたね。ちなみにこれは「どろみ~ず」というユニットで、 Muddy Watersが好きな後輩と組んでいました。
●渋い高校生ですね。
寺:そうかもしれません。ビートルズのようなニュアンスの歌モノを二声コーラスでやって、それにスライドギターを入れてやっていました。その時が、ちゃんとした作曲・作詞の出発点でした。
●toyottyさんの音楽遍歴についても教えてください。
T:小さい頃は親の影響でユーミン、井上陽水、ビートルズなどに親しんでいました。高校二年生の時にあるきっかけで、はっぴいえんどを聴いたんですけど、その時になぜかギターの音色が良いなと思ってしまったんです。なので、今思えばリスナーの側より演奏の方に引き寄せられていたと思うのです。それと、実は Macのガレージバンドというソフトを使って、短い効果音やCM音楽のようなものをサンプリ ングして作ったりしていました。
●かなり怪しいですね(笑)。まぁ …、テクノへ繋がるとも言えますが。
一同:(苦笑)。
●さて、話を戻してペロニカにおける最初の曲作りについて聞こうと思います。最初は「瞑想ジュテーム」であると聞いていますが。
寺:大学の友人であるクサカベに誘われて阿修羅展を見に行くことになったんですね。僕も美術学専攻で関心はあるし、学芸員の資格取得を目指していた toyottyも誘って行ってきたんです。その後、夏に多摩川で飲んでいた時に、ふと神の啓示のようなものを感じて、「作らなくちゃいけない」と思ったんですよね。
T:それを言うなら阿修羅の啓示(笑)
寺:まあまあ(笑)そのせいかは分かりませんが、瞑想ジュテームは比較的早く曲ができたんです。
●そこでお聞きしたいのは、寺尾伴内さんは高校時代はGAROやCSN&Yなどのフォークロックに親しんでいたのに、何故テクノが記念すべき一曲目だったんでしょうか?
寺:実は僕の就職活動がキーになってくるんですよ。音楽を仕事にしたいと考えていたので、ゲームミュージックの制作会社などを志望していました。そこでゲームミュージックをひたすら作っていたら、テクノとの類似性からか、テクノが作れるようになってしまったんです。今までの僕の持ち駒としてはウエストコーストサウンドでしたが、テクノを使わない手はないと思い、取り組んでみたのです。
●そこから本格化していくということでしょうか?
寺:というより、その後に、「僕はムッシュー」という曲ができたんですよ。珍しくピアノでイントロのコー ドを弾いていたら、これで一曲作れると思って。そこで曲を作って自分で歌詞もつくるのでは面白くないと思って、 toyottyに歌詞をつけるよう頼んだんです。緩いノリだったにも関わらず、彼女の詞に才能を感じて火がついたんですよ。ほどなくして、 toyottyとimopyは曲は作れないということを感じたので、曲作りについ ては自分が本腰を入れていこうかなと。
●なるほど。それでは、曲ごとに色々伺っていこうと思います。
トリコロール・サマー全曲大解剖!
インタビュアーが一曲ごとに140字以内で感想(?)を呟きます。
1.瞑想ジュテーム
●瞑想ジュテームから伺います。この曲からはエロ・グロの捻じれた恋愛観を感じますが、一体何が元になっているんでしょうか。
寺:僕の中ではイメージが先行して出来た詞なんです。青い瞳のフランス人の少女が森の中にいて、阿修羅像にスキンシップを図ろうとしている場面なのです。でも阿修羅像は仏像なのでなんのリアクションも返すことができない。少女のやりきれない想いというものを歌にしたんです。
T:フレンチ・ポップのロリータ・コンプレックスも一種の偶像崇拝のニュアンスがあるので、その関連もあると言えるかもしれないですね。
●エロ・グロの背景に戸川純の存在もやはりありますか。
寺:僕はもう潜在的に戸川純が好きなので、それは言えると思います。とある部分(Bメロ)のボーカルにかけたディレイサウンドについても言えるので、注目して聴いてみてください。
●「優しいふりして/暴力的なあなたは/抱きしめて、殴るの …まるで papaみたいね」 という一節なんかもそうですよね。ここは全体の中では異色に感じられるんですが。
寺:フランスという価値観で統一したかったのもあり、フレンチ・ポップのバイオレンスを出そうとし たというのが一つ、その後に「亜麻色の髪もあなたのもの」という部分はドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」を引用することでフランス色でまとめました。
T:セルジュ・ゲンズブール色が強いとも言えるかもしれません。
寺:そのものだと捉えられてもおかしくないかもしれません …。曲で言えば、コシ・ミハルのメロディや細野さんの呪術的な側面にも惹かれました。サビの「瞑想ジュテーム」という部分は松田聖子の「ピンクのモーツァルト」から歌のリズムだけ拝借しています。
●へぇ。それはかなり面白いアプローチですね。
T:ものすごい歌いづらかったですよ(笑)
●この曲のジャポニズムの側面で言えば、 YMOが人民帽を被ってアジア的出自を世界に向けて皮肉したように、テクノと皮肉、マゾヒズムのようなものは繋がりが強く思います。この曲にも無意識に表れていますね。
寺:そうした側面はたしかにあると思います。 YMOへの敬意としては80年代のシモンズドラムを実機録音しているので、これも楽しんでくれたら嬉しいです。
○インタビュアーのつぶやき:イカすぜバンド天国!時代の亡霊が編纂したかのようなテクノ・ポップス。或いは、谷崎潤一郎が今の時代に存在していたらこんな小説を書いていたかも!?阿修羅というと僕にとってはアシュラマン(キン肉マン)だけど、アシュラマン的悲哀もあったり、なかったり。 (122字)
2.ノンレムSwimming
●この曲について、以前 Twitterで「つげ義春」であると仰っていましたがそれはどういった意味でしょうか。
寺:この曲を書いた時にはつげ義春の漫画を読んでいなかったんですが、終わった後に読んでみると 「夢の世界を作品にする」という行為に共通点を見出したのです。
●眠り・夢の非論理的な雰囲気が作品に表れていますね。
寺:特に間奏の部分がそう言えるでしょうね。「おやすみなさい」の部分ですね。
●あそこは何か喋ってますが、あれはなんですか?(笑)
寺:まずはエヴァ愛。綾波レイとアスカの声で toyottyに「おやすみなさい」を言わせました。言わせたかったんですよ(笑)
T:出来ません!と言っているのにうるさい早くやれと強要されました(笑)
寺:その後は、四人囃子へのオマージュとしての逆回転再生になっています。
T:なんだか中国語っぽく聞こえますよね。
●この曲はキャッチーなんだけど、すごく怖い。 imopyの歌い方の虚ろな感じも凄く怖い。不思議な曲だと思います。どこにでもいそうな女子大生像なのに、どこか狂気を感じるストーリーですね。
T:それは言えますね。私達が imopyに様々な新しいイメージを付与していこうとした結果、こうなった と言えます。"Paint it black."です。歌い方についてもかなりうるさく言いました。
●はぁ。本人のヒステリーも出てますね(笑)。他に、相対性理論などのイメージも重なりますが、それを越えたレベルに到達していると言えるのではないでしょうか。
寺:相対性理論を意識した部分は非常に大きいですが、サビのギターのポリリズムやディレイサウンドなど様々な部分で、オリジナルの作品に仕上げたとの自負があります。
○インタビュアーのつぶやき:僕は「自称」Bメロマニアと名乗ってますが(?)、とにかくこのBメロが好き。サビの高揚感を予期させつつ、Aメロと違う景色が見えるBメロこそが全て! imopyの歌は prefab sproutのウェンディー・スミスを想起させる。狂気的な透明感にゾクゾク。(109字)
3.Pyjama de Ojama!
●まず、この曲を聴いて一番に想い浮かべたのは 80'sの角川映画でした。
T:そうです、まさに。より具体的にいえば、細野晴臣の手掛けた歌謡曲世界のイメージで歌詞を書きまし た。
●非日常的ヒロインへの憧れが、こちらがひいてしまうくらい感じられます(笑)。どうなんでしょう か。
T:これは、私が歌うんだけど私じゃないという意識があって、それはあらゆる創作について言えることなんです。
寺:僕らは二人とも匿名的なものにしたくて作っている所があるんです。一曲ずつ違う人が作って、歌うというようなイメージでしょうか。
●なるほど。ロックバンドというのは往々にして、まず主張があり、それを伝達する手段として音楽が あるということが多いですが、それよりも職人的な作り方に近いということでしょうか。
寺:そうですね。どの曲を作るにあたっても、最初にプロデューサーをイメージするんです。これは加藤和彦、これはフィル・スペクターとか。それから曲に落とし込んでいくから、その考えは正しいですね。僕としては、 toyottyから「Pyjama de Ojama!」の歌詞を貰った時にはユーミンのイメージが強く感じられたので、曲作りのモチーフとしました。
T:私も、細野歌謡と言いながらも、呉田軽穂(※楽曲提供する際のユーミンのペンネーム)をイメージし ていた部分もあります。ピュアにそのあたりへの憧れから歌詞を書きはじめたので、「月までつづくエ スカレーター」というフレーズがすぐに出てきました。
●なるほど。歌詞に嫌味がなく感じられる理由も分かりました。それと、僕はこの曲のアウトロが最高だと思うのですが。まず一つに突如現れるコーラス、そしてパーカッションの嵐がなんとも胸に迫りま すね。
寺:個人的には山下達郎、大貫妙子、吉田美奈子の三人をイメージしながら、どうしたら気持ちがいい か考えたんです。実は、僕はこの曲の制作中は理論的に楽曲を考えていこうとしていたんです。しかし、ある時から心境の変化があって、音楽ってそういうことじゃないだろうと思ったのです。感覚的なコーラスをつ けようと思ったんです。自分が気持ち良いとしか思えないフレーズを乗せました。
●パーカッションについてはいかがですか。
寺:斎藤ノブらが当時使っていたティンバレスをイメージしたんですが、レコーディングスタジオ には置いてありませんでした。そこでスネアをパンパンに張って、叩いてもらったんです。
●80'sのトーキング・ヘッズやXTCがアフリカンなリズムアプローチを取ろうとした雰囲気にちょっと近いです。アフリカ密林地帯に住む部族への憧れのような。
寺:そうとも言えるかもしれません。とにかく、かっちりと進んできた楽曲を一気に感覚で壊すことで、何とも言えない良さが出たと思っています。
○インタビュアーのつぶやき:アウトロで脳内麻薬の大放出。ここに最大のオリジナリティを感じる。 ピグミー族の音楽がヴェンダース映画で登場するシーンがあったのでCDを持っているんですが、それ を思い出しました。理屈を超えたコーラスワークとパーカッションには涙。( 116字)
4.組曲、真冬のヴァカンス
●この曲は組曲であり、作詞も Bannnai-toyottyとなっております。それで、歌詞も女性の部分と男性の部分に分かれていますが、何故このような構成になったのでしょうか。
寺:最初は冒頭の大瀧詠一を感じさせる曲調のまま最後まで行くつもりだったんですが、途中で煮詰 まってしまって。そこで歌詞をtoyottyに頼む形で作り上げていきました。太田裕美の「木綿のハンカチーフ」という曲がありますね。あれは松本隆が一人で歌詞を書いているんですが、男女の歌詞が交互に登場するという特殊な形式になっています。それをモチーフとしました。
T:私も松本隆が人に歌詞を提供する、コテコテな感じをイメージしたんです。裏話ですが、「雪化粧の街を挿絵にして」という歌詞の通り、レコーディング当日は東京に雪が積もった日だったんですよ。
●いいストーリーですね。他に、オーボエソロの後の拍手はサージェントペッパーを彷彿とさせます。
寺:あれは、クラッシックコンサートの後のソリストへの拍手をイメージしたんですよ。
T:拍手はレコーディングが本当に大変でした …。二階に上って拍手したり、いろんな場所で何テイクも取って重ねたんですよ。寺尾さんが超スパルタで…。
寺:toyottyにはモニター用のヘッドフォンを渡さないで、拍手をしてもらいました。周りとの微妙なズレが出る方がリアリティがあると考えたのです。
●これは面白い。また、破天荒なギターソロバトルが面白くありますが、その後に抜けて出る歌メロディーが凄く新鮮でいいですね。
寺:そうですね。ソロからメロにかけて転調している部分がその効果を出していると思います。
●「いつもそうなのね~」の部分に関してはフリッパーズ・ギターを彷彿とさせます。これは、寺尾さん の音楽遍歴としては異色だと思うんですが。
寺:これは僕にとっては重要なことなんです。元々そうしたジャンルを聴いてこなかったんですが。僕は声が細いので、ロックを歌う感じでもない。模索をしていた中で、彼らのようなスタイルがアリならば自分もいけるかな、と気付いたのです。
●ボーカリストとしての発見。
寺:そうです。そういう意味での大発見だったんです。
○インタビュアーのつぶやき:トリコロール・サマーなのに真冬のヴァカンス。それは敢えてインタ ビューでは聞かなかった。でも、夏に冬の歌を聴いたり、冬に夏の歌を聴くのって悪くない。それと聞くところによると、寺尾伴内に渋谷系を教えていたのは実は toyottyだったとか。(110字)
5.僕はムッシュー
●デカダンな雰囲気を感じる曲ですね。作詞はtoyottyさんですが。
T:Bannnaiさんからパリの男性が歌うノスタルジックな詞を書いてくれと言われたんです。私としては 19世紀らしいものにしたいなぁと。さらに、加藤和彦のヨーロッパ三部作のイメージでということで。しかし、一切聴かないで詞を書いてみることにしたのです。駄目な男のうらさびしい感じで行こうと思ったんです。
寺:しかし、結果としてはレコーディングエンジニアの後藤さんから「ヨーロッパ三部作に入ってそうな曲だねえ」と言われ、当てられてしまったのですよ(笑)。実際に、全編に渡ってコンセプチュアルという意味では加藤和彦の影響を大きく受けています。
●歌詞については、非常に短いので難しかったと思いますが、いかがでしょうか。
T:実は、僕はムッシューというのは、僕=ムッシュー(フランス語における何某、特定しない誰か、 の意)という意味を持ちながら、僕はね、ムッシュー、と相手への呼び掛けの意味も持つダブルミーニングなんですよ。意味を断定したくなくて、匿名的なものにしたかったんです。
●匿名性というとポストモダンのテーマでもありますね。19世紀(モダン)が舞台なのにポストモダン という捻じれが、なんとも面白くもあります。
T:そして、実は後から気づいたことでもあるのですが、「ムッシュー・ドゥ・パリ」もこの曲のモチーフになっているんですよ。「ムッシュー・ドゥ・パリ」とは死刑執行人を意味しているんですけど。
寺:そうすると、この歌がパリの死刑執行人の歌ともとれるとも言えるのです。
●おお…。「丘にのぼるだけさ」というフレーズなんてかなりハマりますね。
寺:そうです。聴く人にとって様々なイメージで聴いてくれたらいいなと思っています。
○インタビュアーのつぶやき:僕はスタイルカウンシルのCafe Blueやスティングの1stを想像した。まあ、構造としては理屈に適っているか。パリという土地は多くのジャズミュージシャンの巡礼の地でもあったことから、このサウンドにも異国からのフランス像が見て取れる。なんて。(112字)
6.とりころーる
●以前うかがったのですが、これは一度ローマ字にして書いてみて、音の響きを考えた上で日本語に直したと。(カレーの染み→curry no see me)そうした言葉遊び感覚というのは、日頃のサークルでの仲間同士での崩壊していく言語感覚とかからも来ているんですか。
T:そうなんですよ。私はそうした側面が大きいと思っています。
寺:逆空耳アワーとも言えますね(笑)。
T:マーティン・フリードマン状態。「コレ、ホントにキコエルヨー」みたいな(笑)。(注:そういう 番組が以前あったのです)
●さて、この曲は元ネタにフィル・スペクターがあるとも伺っていますが。
寺:そうです。フィル・スペクターが手掛けたクリスタルズの「Da Doo Ron Ron」という曲がありま す。それを大瀧さんがなぞらえた「ウララカ」にさらに乗っ取ろうと。
T:私も「ウララカ」にあるような言葉遊びの世界に強く惹かれていましたし。
寺:そうしたものを踏まえながらもオリジナリティを出すという段階で、自分の持ち味でもあるウエストコーストサウンドを加えたんですよ。さらに、そこに渋谷系も入るというハイブリッドな曲なんですよ。
●不思議だけどキャッチーなバランス感覚がいいです。
寺:そうですね。ありがとうございます。
T:ペロニカにおいてはフランスをイメージしながらも、裏テーマとして色というものへの拘りも強いんです。そうしたことが色んな曲についても言えると思います。あと、様々なオマージュが歌詞にもたくさん散りばめられているので是非気にしてみてください。(笑)
寺:モータウンビートのグルーヴ感もいい仕上がりになってます。モータウンビートが消えてもキックだけでは残り、アコースティックギターはそれを支えるなど、そこはかとないリズムアレンジがポイントです。これ は聴いてほしいです。
○インタビュアーのつぶやき:ゲシュタルト崩壊ではないけど、とりころーるという言葉の意味が分からなくなるほど音の響きが良い。でもポップスってそれが大事なことだよなと思い出した。それをペロニカは凄く意識したグループであると思う。(98字)
7.ジェニーはご機嫌ななめ
●この曲については、ジューシーフルーツに始まり、やくしまるえつこ、 Perfumeと様々なカバーバージョンが存在しますが、その中でも一番アガるサウンドになっていると思います。ダンサブルですね。
寺:キックの出し方とかも凄いこだわったんですよ。そう言ってもらえると嬉しいです。
●しかし、間奏のギターについては、Perfumeが堂本兄弟に出演した時のギターを弾く高見沢俊彦氏へのオマージュであると思うんですが。(笑)
一同:笑
寺:そこは愛でしかないです(笑)。
●それはさておき、何故この曲をカバーしようと思ったのか、あるいは、どう他との差異化を図ろうとしたのかについてお聞かせ下さい。
寺:時代の流れとしてテクノポップに便乗するということが一つ。プロモーションの意味も含めて。サウンドメイキングとしては、瞑想ジュテームをベースとしたかったんですよ。ペロニカ風テクノは人間的なコーラスも入りつつ、少し変わってると思うんです。
T:生音も入れつつ。
寺:それで言うと、やはりPerfumeがライバルであるわけです。しかし、そういうテクノにはしてない。どういうわけか、彼女達のバージョンではロボ声にしていない。それなら、まず逆にうちらはロボ声にしようと。 また、ジューシーフルーツはニューウェーヴという文脈で登場していましたが、もし彼らがテクノ寄りで登場していたら?という妄想に基づいて。それで、サンプラーを使ってみたんですね。そこで僕はリヒャルト・シュトラウスの「ドンファン」からオーケストラ・ヒットをサンプリングしたんです。イエスのロンリーハートのオーケストラ・ヒットがイメージとしてあったので。
寺:それで、ここが重要なんですが、僕達のサウンドというものをリスナーの潜在意識に植え付けたい と思ったので、イントロのシーケンスにある仕掛けをしているんですよ。
T:サブリミナル効果(笑)
●怖っ(笑)。オカルト…(笑)。これはネタバレしない方が楽しいと思いますね。
寺:それから、この曲は藤井さんの貢献が大きいですね。テクノ黎明期を支えた方で、四人目の YMOの松武秀樹さんとも仕事をされていた方で。僕達の使う、ノイズやループを一から手作りで作ってくれたんですよ。それと、ボコーダーサウンドにも注目してほしいですね。
T:2010年にしてアナログなんですよ。
○インタビュアーのつぶやき:ゲーム会社の制作作品応募から始まったテクノ作りが、ここまでくると は。大切な事は技術ではなく、想像することじゃないか?とインタビューを通して思った。アッパーな テクノサウンドにもびっくり。誰のバージョンよりもアガる。(105字)
まとめ
●ありがとうございます。さて、本日メンバーのimopyさんは欠席されていますが、彼女はこのグループにおいてどういう存在なのでしょうか?
寺:第三のボーカリストという存在。彼女のボーカルは効いているんですよ。あまり多く入れ過ぎるのではなく、ここぞという部分で入れると気持ちがよい。かしゆかで言う所のPerfume…じゃなくて、 Perfumeで言う所のかしゆか(笑)。
●(笑)
寺:彼女は純粋なパフォーマーとして大きな役割を果たしています。僕達のこんなスパルタに対してもマイペースな所がいいんですよ。
T:彼女は半分は優しさでできている所もあるので(笑)。私達に付き合ってくれます。ほんとに感謝しています。
●さて、色々と話を聞けたと思いますが、今後の話をお聞かせ下さい。
寺:多くの方々に参加して頂き、凄く良いものができたという自負があるので、まずこのトリコロール・ サマーを少しでも多くの人に聴いて頂きたいです。生粋の音楽ファンだけではなく、誰に対しても届くモノにしたい。二極化したシーンの壁を壊すようなことが出来れば、今後の音楽シーンにとっても大きい出来事になると思うんです。中庸を行く、という。それへ向けての実験作でした。今回の作品の反響次第ではありますが、今後はパッケージではなく配信についても考えています。
●MVなども非常に凝っていますよね。アイザワさん(※映画を撮っている大学の後輩)を監督に迎えての撮影だったと聞いていますが。Myspaceで観ました。
寺:あれも面白いですよね。「お前早く脚本書け事件」というのがありまして(笑)。韓国料理屋での新年会で脚本を持ってくる予定だったのに、何も手をつけていない状態で。そこで早く書け!と怒って書いてもらいました(笑)。そうはいっても、「ジェニーはご機嫌ななめ」等すごく笑えるMVになっていると思います。いい仕事をして頂きました。今後共々お付き合いして頂きたく思っています。本当に今回は、多くの参加メンバーが僕らのコンセプトを汲み取ってくださって感謝しています。
T:参加メンバーにも楽しんでもらえたので、嬉しく思っています。
寺:そう、楽しくなくっちゃだめだしね。
●緻密さの中に、いかに肩の力を抜くかという。
寺:そうです。音楽はあくまでも大衆芸能であると僕は思っているので、どうしても楽しむという所は外せなかった。計算しつくされた上で、肩の力を抜く。
T:私はそれを照れ隠しとも呼んでいますが(笑)。
●ありがとうございます。お二人がとても音楽を好きで、芸術肌な方々であると感じました。その上で、優等生にはならない。ピチカート・ファイヴを思わせるバランスのお二人でした。本日欠席されたimopyさんも含めると、さらに楽しいVibesが放たれるのでしょう。今後の活躍にも期待したいと思い ます。本日はどうもありがとうございました。
寺、T:ありがとうございました。
(2010年7月掲載)
『トリコロール・サマー』音源配信はこちら